Kon Ichikawa Website

――最後になりますが、藤井さんも現役を続けておられますが、市川監督が最後まで映画を撮っていたことについて…。

結局、市川さんにしても、いい映画をたくさんつくっておられたり、そういう実績があるから、何処でだってできるし、金を出すやつは出すし。どうっていうことはなく突破できてきた訳でしょ。そういう意味でいえば、市川さんっていう監督は、とても幸せでしたよね。
それで、あの、年齢を感じさせなかったですよね。それもひとつの才能ですよ、歳をとっていないというか。そのフレッシュさを維持するというのは大変なことですよ。そりゃ、いろいろな勉強の仕方をしていらしたんだろうけども、それを受け止めるだけの許容量というか、若さがあるというか。それは、ぼーっとしていたら、そうはいかない。貪欲でないとね。芸術家ってのは、みなそうじゃないですかね。うんと歳をとった絵描きだって、歳に負けないだけの意欲とテクニックを持っているから。そういうのでなければ、大巨匠とか、大芸術家なんてなれないし、小説家だってなんでも。だって、その地位に甘んじていたら、落ちるのに決まっているじゃないですか。
厳しいですよ、ものをつくっていくってことは。いつまでも、フレッシュな感覚を保っていけるというのは、大変な努力、人には見せないですけども、だと思います。

――　幸せな映画人、ということでは、スタッフにも恵まれていましたね。

まあ、それは、みんないいスタッフがいてくれないと出来ないんだけれども、でも、なんていうんですか、そういう時代と、会社、いいところにいいところに、東宝でも良かったし、新東宝でも良かったし、大映でも良かったし、日活でもいい仕事をしたし、とても恵まれた監督ですよ。ちょっと時代がずれて来ると、そうはいかない。

――　市川監督は、運が良かった、と自分で言ってましたね。

それはそうですよね。だけど、じーっと待ってたって、運が開ける訳ではないから。
そういうチャンスが来た時に、バーンとすごい映画を作るとかね、なんかがなけりゃ、それは、いくらいい仕事が来ても、撮った映画がメチャメチャだったらね、一本で終わりみたいなことになる。

（了）