あれから40年近くの間、映画、テレビ、コマーシャルと監督と一緒に映像の仕事を共にしてきました。しかしこの40年間、上手く出来たね、ご苦労さんと褒められた事が一度もないんですが、それを不満に思ったり、何故認めてくれないのかと思ったりした事も全然ありません。毎回、目標に向かってプランを立て、準備をして、現場を走り回り、終ってうまくいってるなと感じ、ホーッと溜め息を付くのがやっとだったというのが本音でしょう。暫くしてから分かった事が一つあります。それはプロフェッショナルという事なんです。それも監督に言われて気付いた事なんですが、ある仕事の最中、一寸思案に余る事があって、監督に相談してみました。返事は簡単でした。
『お前さん、プロだろう』
と、これだけでした。
"音のプロだと思うから、全てまかせているんだ。しっかりしろ"
と云うことでしょう。
このプロフェッショナルという言葉に監督は特にこだわっておられたように思います。
その後、監督からこんな話を聞かされました。
『映画というものは大変たくさんの技術の結集によって支えられているんだよ。セットやいろいろな道具を作る美術部、被写体を必要な形で写し取る撮影部、隅々まで良く写るように光を操る照明部、撮影された映像とサウンドを絶妙なタイミングで編集し、作品としての形を整える編集部、撮影現場で台詞やアクションノイズを収録し、最後にドラマに適合した形に組み立てる録音部、全てがうまく展開するように差配する監督、などだね。この他にもいろいろな専門職が夫々力を出し合って映画が出来るんだよ。私は監督だから芝居の演技とか、カットの画郭の大きさとか、こと演出に関する限りは全部責任を持つが、他の事には全くの素人、監督に関することなら何でも対応するが他の事には一切関わらない』
と云うことでした。
思えば、市川組といえば、何時も和気あいあいとしていて、和やかな笑いが絶えず、気持ち良く仕事が進んでゆくので有名でしたが、これは一重に、監督の各部に対する信頼の度合いの強さによるものと思えます。一度任せると言ったら、後は何もいわずに全て思いのままにやらせてくれて、撮影現場でも、こちらが出来ましたというまでは黙って待っていてくれました。そんなお互いの信頼度から完成度の高い映像が生まれてきたのでしょう。又それだけでなく、スタッフ一同の仕事に対する態度が、半端なことは出来ないぞ、という懸命さにつながって行ったのだと思います。監督の映像に対する傑出した才能と、更に加えて大勢のスタッフを大事にするという気持ちが、多くの傑作を生んだ原動力だと思います。
私も、映画屋人生の半分以上を市川監督との仕事で過ごすことが出来て、今現在たいへん幸運だったと感じています。
(了)