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Films

劇場公開作品をご紹介します。
花ひらく 1948年新東宝映画
花ひらく スチール写真

STAFF
製作:阿部豊 原作:野上弥生子 脚本:八住利雄 撮影:小原譲治 照明:藤林甲 美術:河野鷹思 録音:神谷正和 編集:後藤敏男 音楽:早坂文雄

CAST
高峰秀子 上原謙 吉川満子 藤田進 三村秀子 村田知英子

昭和初期。大学で社会学を学ぶ名家の令嬢・真知子。真知子は、家族や周囲の富裕階級の人々の旧弊な考えに反発し、彼らが勧める結婚を頑なに拒んでいた。そんな中、社会事業施設で働く親友・米子の紹介で保釈中の社会活動家・関と出会い、心惹かれていく。ある時、姉の辰子に誘われスキーに行くと、それは大会社社長・河井との見合いであった。憤った真知子は吹雪の中を飛び出し、河井に助けられ山小屋で一夜を明かす。河井は、反感を露にする真知子に、どんな場合も愛情に根ざした自由を大事にしたいと信念を語った。辰子が縁談の邪魔をしてくれるなと関に手紙を出したのを知り、真知子は関に愛情を吐露する。窒息しそうな生活から救い出してくれと言う真知子に、関は、自分も惹かれる想いに抗っていたのだと打ち明けた。真知子は家出して関と結婚すると決意し、未来に胸をふくらませる。だが、米子は関の子を宿しており、その子を一人で育てようとしていた。関は、米子の苦しみを公平で自由な社会をつくる活動とは別の個人的なことと顧みない。真知子はそんな関に失望し関の元を去る。宛もなくさまよい歩く真知子の目にとまったのは、工場労働者の賃上げ要求に河井が私財を投げ打ったという新聞記事だった。旅に出、ひとり海辺にやって来た真知子。その顔は、思想の根底になる人間性に目覚め希望に満ちている。

市川崑の実質的なデビュー作で、時代を呼吸する近代女性像を描いたメロドラマ。市川は、映画でしか表現できないものをやろう、と気負いを持って取り組んだ。
当初の作品名は、原作と同じ「眞知子」だったが、公開時に「花ひらく」に変更された。このため、傍題として「眞知子より」が付け加えられた。

モノクロ スタンダード 85分

三百六十五夜 東京篇・大阪編 1948年新東宝
三百六十五夜 スチール写真

STAFF
製作:児井英男 原作:小島政二郎 脚本:館岡謙之助 撮影:三村明 照明:大沼正喜 美術:進藤誠吾 録音:矢野口文雄 編集:長田信 音楽:服部正

CAST
上原謙 山根寿子 高峰秀子 大日方伝 堀雄二 吉川満子 河村黎吉

川北組の跡取り息子の小六は、下宿先の令嬢・照子と恋に落ちる。だが、小六の父は、倒産寸前の川北組を救う為に、新興成金の小牧商事の娘・蘭子との結婚を切望していた。蘭子は小六に愛を求めていたが、小六は自信家で強引な蘭子を嫌っていた。小六は、蘭子との縁談を断固拒み、会社の資金繰りに動く。照子は、小六を助けたい一心で、小六の知人で小牧商事が経営するキャバレーの支配人・津川から金を借りる。だが、金持ちに生まれた純粋な小六と、貧乏に生まれ金力を妄執する津川との間には、強い確執があった。小六は、金を津川に返そうとするが、その小切手が、照子の落ちぶれた実父・東吉によって盗まれる。そして津川の手に渡り、照子は小六を陥れようとする津川の陰謀に巻き込まれる。照子を疑い裏切られたと苦しむ小六と、愛する人に信じてもらえず苦しむ照子。蘭子もまた、受入れられることのない愛に苦悩する。遠く離れた小六と照子の心を再び繋ぎ合わせたのは、金の凄まじい恐ろしさを知った東吉だった。

市川の案で「東京篇」「大阪篇」の2部作として作られたが、再公開用に編集された「総集篇」のみが現存。予想外の大ヒットとなるも、次回作として約束していた芥川龍之介の『偸盗』は実現しなかった。

モノクロ スタンダード 119分(総集編)

人間模様 1949年新東宝
人間模様 スチール写真

STAFF
製作:児井英男 原作:丹羽文雄 脚本:山下与志一、和田夏十 撮影:小原譲治 照明:藤林甲 美術:河野鷹思 録音:根岸寿夫 編集:長田信 音楽:仁木他喜雄 

CAST
上原謙 山口淑子 月丘千秋 青山五郎 江見渉 東山千栄子 斎藤達雄 伊藤雄之助 高木昇

軍隊では伝書鳩の飼育係をしていたという絹彦は、私利私欲の無い極めて温厚な人物。母は女学校の校長である。幼馴染みの沙丘子は、絹彦に好意を寄せつつも、人間が現代的でないと反発を露にする。ある時、絹彦は旧友でデパート社長の小松原の秘書・吟子と知り合い、純粋な親切心から盲腸炎の吟子を泊まり込みで看病し、電蓄やレコードを売って手術を受けさせる。吟子は絹彦の人柄に惹かれ、やがて愛情を抱くようになる。吟子に敵愾心を燃やす沙丘子は、有能で活力旺盛な小松原に理想の男性を求め、小松原の秘書に志願する。が、公私混同した野心を抱く沙丘子の申し出は断られ、沙丘子は家出をして闇会社社長・木下の秘書になる。吟子は、絹彦の親切が恋愛とは別ものと知っていて葛藤し、吟子を愛する小松原は、軽視していた絹彦の人間性を考え直す。母の急死で校長に就任した絹彦は、学校の資金繰りに忙しくなり、術後の吟子の世話を小松原に託す。小松原は、絹彦に真っ向勝負を挑む思いで吟子に求婚し、吟子は絹彦への資金援助を条件に結婚を決める。沙丘子は、小松原に幻滅し二人の結婚を祝福する絹彦の人の良さに苛立ち、木下と関係をもつ。沙丘子の父は、自分の親切な心を軽蔑し進む道に惑う娘を案じていた。絹彦も、沙丘子の親切な心を知っていた。ようやく沙丘子の悩みが分かり初めた絹彦は、沙丘子を救う決心をする。

喜劇的タッチが織り込まれたラブ・ロマンス。脚本の"和田夏十"は、市川崑と市川由美子の共同ペンネーム(後の「恋人」から、市川由美子の単独ペンネームとなる)。

モノクロ スタンダード 89分

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果てしなき情熱 1949年新東宝、新世紀プロ
果てしなき情熱 スチール写真

STAFF
製作:井内久 脚本:和田夏十 撮影:小原譲治 照明:藤林甲 美術:小川一男 録音:根岸寿夫 編集:長田信 音楽:服部良一

CAST
堀雄二 月丘千秋 笠置シヅ子 折原啓子 清川虹子 江見渉 斎藤達雄

流行歌の作曲家・三木は、銀座の安キャバレーで、酒に寂しさを紛らし満たされぬ想いを曲に寄せる。給仕女のしんは、三木の人と唄を愛し、幼馴染みの歌手・福子もまた三木を愛している。ある時三木は、旅先の湖畔で女性と出会い、名も知らぬその人を心から消し去ることができなくなった。想いは「湖畔の宿」という曲を生んだ。その後、三木は暴漢に襲われるその人を助け、暴漢を傷つけ一年の刑に服す。女性は三木に気づかずに去った。しんは、差し入れを続け、出所した三木を出迎える。三木はしんの気持ちを痛感し結婚を申し込む。が、仲間が集う結婚祝いのパーティーに三木の姿はない。その夜、プラットホームで三木は女性と再会し、渡された名刺で優子という名を知る。心を乱し結婚は取り消しだと言う三木に、しんは、私をあなたに捧げさせて下さいと縋る。「夜のプラットホーム」が流れると、三木は自分だけの唄だと言って荒れ、狂おしい恋情に酒浸りの日々を過ごす。自分が三木を苦しめているとしんは悩むが、福子は三木を手離してはいけないと言う。三木は、しんと自分の悩みに終止符を打つために優子に会いに行く決心をする。だが、優子は還らぬ人となっていた。三木は自殺を図り、必死に止めるしんに己の苦しみを打ち明ける。二人とも片思いだった、としんはつぶやき、一つの魂が死んでも作曲する魂がある、唄は三木を見捨てはしない、と言った。海岸で倒れ伏す三木の瞳に輝きが戻る。しんは、自分も自分の愛に一生を捧げると誓う。

新東宝の案は、"服部良一氏の伝記映画"だったが、種々の問題でオリジナル脚本となった。服部氏のヒット曲が全編にちりばめられている。
疑似パン・フォーカスを試みるなど、スタッフと共に情熱的に取り組んだ。「完成した作品はちっとも面白くなくてペシャンコになった。僕の若さのほとばしりのような映画」と市川は語る。

モノクロ スタンダード 91分

銀座三四郎 1950年新東宝、青柳プロ
銀座三四郎 スチール写真

STAFF
製作:青柳信雄 原案:富田常雄 脚本:八田尚之 撮影:安本淳 照明:佐藤快哉 美術:小川一男 録音:中井喜八郎 編集:長田信 音楽:飯田信夫

CAST
藤田進 志村喬 河村黎吉 飯田蝶子 山根寿子 風見章子 木匠久美子 清水元 江見渉

ベアーこと荒井熊介は、か弱い人々を救う銀座裏通りの町医者である。鳥料理屋の亭主・銀平は、ベアーの大恩人で父親替わり。その昔、銀平は柔道六段のベアーに片目を潰されるも訴えずに許した。以来、ベアーは銀平との固い約束で腕力を封じている。女学校で体操を教える銀平の娘・絹江は、ベアーと結婚したいと思っており、銀平と妻の種子もそれが望みだ。だが、ベアーには結婚を約束をした女性がいる。大陸の病院で看護婦をしていたマリエという女性で、渾名をカナリヤという。旧友の医者・タンクがベアーを訪ね診療所にやって来る。近くのバー・カナリヤでやくざ者が暴れていると知らせが入り、ベアーとタンクが駆けつけると、そこはマリエの店だった。ベアーはマリエと奇跡の再会をし約束の結婚を申し出る。だが、マリエには別の男性がいた。ベアーは頑ななこだわりを捨て、晴れて絹江に結婚を申し込む。ところが、マリエが神経衰弱で倒れ、獣のような暴力団の男の情婦となっていることが分かる。ベアーはマリエを救おうと腕力の封印を解き男をやっつける。"愛人を救う銀座三四郎"との新聞記事に、絹江はショックを受ける。ベアーは、タンクに人の心の機微を知らぬと嗜められるも、寄る辺のないマリエを救うのは自分しかいないとマリエとの結婚を決意。絹江は、いったんはベアーの説得に納得するが、気持ちを押さえきれない。絹江に熱情をぶちまけられ、ベアーは絹江の心、そして自分の心に改めて気づくのだった。二人の結婚式の日、銀平は縁起棚の片目のだるまに目を入れる。

前作の失敗に悩みぬき、気分一新をはかった軽快な現代劇。現存プリントは、「銀座の猛者 "銀座三四郎より"」と改題された縮尺版(64分)。市川は短縮版の編集には携わっていない。

モノクロ スタンダード 82分

熱泥池 1950年新東宝
熱泥池 スチール写真

STAFF
製作:田中友幸 原作:木村荘十 脚本:市川崑、板谷良一 撮影:横山実 照明:横井総一 美術:加藤雅俊 録音:根岸寿夫 編集:後藤敏男 音楽:伊福部昭

CAST
藤田進 利根はる恵 堀雄二 東野英治郎 進藤英太郎 田中春男 山本礼三郎

100万円強盗犯の栗田と、栗田の正体を知らず15万の金欲しさに一ヶ月間の女房に雇われたカツミは、貨客船・石狩丸で、北海道の広尾へと向かっていた。偶然船に乗り合わせていた元医師の千葉は栗田の素性に疑惑の目を向け、ボーイの御小柴はデッキでカツミと言葉を交わし恋に落ちる。広尾に到着すると、函館で下船した千葉が再び姿を現し、栗田の正体を見透かし取り引きを持ちかける。砂金掘りをするという栗田に千葉も同行し、栗田、千葉、カツミの三人は、連れ立って北海道の荒野に分け入った。栗田は山小屋で猟師や山師相手に商売を始める。カツミは自由になる日を心待ちに店で酒を売り、千葉は虎視眈々と栗田の100万円を狙う。一ヶ月が過ぎ、カツミは約束の15万を要求するが、栗田は渡さずカツミを離さない。犯行がばれるのを恐れるばかりではない。都会で金に行き詰まり強盗を働いた栗田は、この荒野で強い孤独と不安に陥っていた。閉ざされた山小屋で疑心暗鬼の睨み合いを続ける三人。御小柴が、カツミを追って山中に迷い込み行き倒れになり、栗田は御小柴を助ける。千葉が遂に金の在処を知り、栗田と千葉は壮絶な闘いを繰り広げる。栗田は、千葉の手から愛し合うカツミと御小柴を逃がし、死闘の末、千葉に殺される。千葉はカツミと御小柴を追って断崖から転落、原生林の地獄沼・熱泥池に札束が舞う。

西部劇調の題材を日本でやることの困難を感じながらも、与えられた題材をいかに自分らしく撮るかを工夫した作品。現存プリントは、「現ナマと美女と三悪人」と改題された縮尺版(62分)。

モノクロ スタンダード 102分

暁の追跡 1950年新東宝、田中プロ
暁の追跡 スチール写真

STAFF
製作:田中友幸 企案:中川淳 脚本:新藤兼人 撮影:横山実 照明:石井長四郎 美術:中古智 録音:根岸寿夫 編集:長田信 音楽:飯田信夫

CAST
池部良 水島道太郎 伊藤雄之助 田崎潤 杉葉子 野上千鶴子 江見渉 三原純 菅井一郎 北林谷栄

空襲で焼け残ったビルが建つ新橋。駅前の交番に勤務する石川巡査は、ある日、訊問中の男に逃げられ追跡、男は石川の眼の前で轢死した。男は舟木といい、麻薬取り引きに使われていた。石川は舟木を死なせたことが心に懸かり、遺族を見舞い舟木の病身の妹・雪江に貧乏人いじめと罵られる。戦争から帰りやっとありついた警官という職だが、石川はその職務について悩みを深め、職務に迷いの無い山口巡査と意見を闘わせる。恋人の友子は、結婚に煮え切らぬ態度の石川が焦れったい。同僚がピストルの暴発事故で免官になり、警察組織の特殊性に不満を高める石川は、非番を利用して職探しをする。そんな折、ビルの一室で争う男達を目撃、事件は麻薬密売組織絡みだった。雪江が殺され、所持していた石川宛の手紙には、貧乏人が苦しさのため悪事に手を染めるのは仕方がないと罵ったが、貧乏人が悪事に手を出せば、悪人に利用され転落するのみと分かったと書かれていた。捜査線上に八郎という大金持ちの若者の名があがる。事件との因縁を感じる石川は犯人逮捕への執着を強め、山口との論戦の末、弱い人間を助けることで犯罪をなくすと、警官を続ける心を決める。石川のプロポーズに、友子は深い愛情で応えた。警邏隊も総出動の夜更けの倉庫街銃撃戦。組織の首魁で元憲兵の阿久根は廃墟から転落。石川は、殉職した山口と、仲間割れで野たれ死んだ八郎の骸の前に佇む。

警視長であった中川淳のスートリーをもとに、警察庁の全面協力で制作。新橋の交番内にキャメラを据えるなど、ドキュメンタリー・タッチで撮影し、戦後の警官の実態をえぐる。「初めて自分のやりたいものと出会った。」と市川は語る。

モノクロ スタンダード 93分

* 作品タイトル欄の社名等は、映画制作当時の製作者です。
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