市川崑サインKon Ichikawa Website


Films

劇場公開作品をご紹介します。
野火 1959年大映東京
野火 スチール写真

STAFF
製作:永田雅一 企画:藤井浩明 原作:大岡昇平 脚本:和田夏十 撮影:小林節雄 照明:米山勇 美術:柴田篤二 録音:西井憲一 編集:中静達治 音楽:芥川也寸志

CAST
船越英二 ミッキー・カーチス 滝沢修 浜口喜博 石黒達也 稲葉義男 星ひかる 月田昌也 杉田康 伊藤信 浜村純 潮万太郎

太平洋戦争末期のレイテ島。肺病で隊を追い出さた村山隊の田村一等兵は、病院にも受け入れられず、同様に行き場のない兵たちと近くの林に潜む。病院に入れなかったら自決しろと田村は手榴弾を渡されていた。病院が砲撃され、兵たちと田村は逃げる。小川で水筒に水を汲みながら、死ぬつもりなのになぜ逃げ水を汲むかと自問し、自分も死ぬのだからと死にかかった兵を見捨てて行く。田村は、芋畑で大島隊の班長らと出会う。大島隊はニューギニアで人肉を喰って苦労したと噂されていた。畑のかなたに、収穫後の豆殻や籾殻を焼く野火が立ちのぼっていた。先の攻撃で村山隊は全滅、レイテ島の兵は全隊パロンポンに退却せよとの令が出されていた。雨季のレイテを日本兵の群れがパロンポンを目指す。街道を米兵のトラックが連なって行き、投降を口にする兵に、班長は投降はさせぬと殺気立つ。戦車の砲撃で、日本兵は屍の群れとなり、班長も死ぬ。赤十字の米衛兵が負傷した日本兵をトラックに乗せている。田村は白旗を作るが、眼前で投降した兵が米女性兵に乱射される。極限の飢えに発狂した将校を見過ごし荒野を行き、田村は村山隊の安田と永松に再会する。安田と永松は、猿を射止めその肉を喰らう。肉を貰うが田村は歯が抜け食えない。永松が猿を射止め損じ、田村はその逃げる日本兵を見た。三人は殺し合い、一人になった田村は、普通の暮らしをしている人間に会いに野火を目指し歩く。が、銃弾が田村を倒す。

人が人を喰らう戦場の惨状、追いつめられていく人間の意識、極限状態に置ける人間性を、徹底した客観視で見つめる。

モノクロ スコープ 105分

女経 第二話・物を高く売りつける女 1960年大映東京
女経 スチール写真

STAFF
製作:永田雅一 企画:米田治、塚口一雄、藤井浩明 原作:村松梢風 脚本:八住利雄 撮影:宮川一夫、村井博、小林節雄 照明:柴田恒吉、田熊源太郎 美術:柴田篤二、山口煕、渡辺竹三郎 録音:橋本国雄、三枝康徐、須田武雄 編集:中静達治 音楽:芥川也寸志

CAST
山本富士子 船越英二 野添ひとみ 菅原謙二 潮万太郎 大辻伺郎

失踪中の流行作家・三原靖は、海岸の砂浜に伏していた。三原が虚ろな視線を上げると、着物姿の女が静かに立っていた。別の日も、三原は女と出会う。女は砂浜で死んだ夫の手紙を焼いていた。妖しげで美しくしとやかなその風情。三原はとある別荘の前でまた女と出会う。女は、三原をひとり住まいの家へ上げ、風呂に入れ、裸身になって三原の背中を流す。じきにこの家を売らねばならない、と女は言う。三原は、女が好きなだけここに居られるようにとその家を買う。売値600万、手付け100万円。契約を交わすと女は姿を消した。女の名は土砂爪子。不動産や自動車を売って仲介業者から手数料を取る、税金の掛からない裏商売を生業とする伝法な女。爪子に惚れた三原が、爪子の居所を突き止めやって来る。三原は、家を又売りして儲けたという。爪子は、今度は高い婚姻届を売りつける。

第一話『耳を噛みたがる女』(増村保造監督)、第二話『物を高く売りつける女』、第三話『恋を忘れていた女』(吉村公三郎監督)からなるオムニバス映画。
* STAFFは、『女経』全体のスタッフを記しています。

カラー スコープ 102分(三話合計)

ぼんち 1960年大映京都
ぼんち スチール写真

STAFF
製作:永田雅一 企画:辻久一 原作:山崎豊子 脚本:和田夏十、市川崑 撮影:宮川一夫 照明:岡本健一 美術:西岡善信 録音:大角正夫 編集:西田重雄 音楽:芥川也寸志

CAST
市川雷蔵 若尾文子 中村玉緒 草笛光子 越路吹雪 山田五十鈴 毛利菊枝 京マチ子 船越英二 林成年 倉田マユミ 北林谷栄 中村鴈治郎

喜久治は、船場に四代続く足袋問屋河内屋のぼんぼん。河内屋は、父・喜兵衛もその先代も養子婿の女系家族であり、祖母のきのと母の勢以がしきたりを固守し家内を牛耳っている。昭和2年、喜久治22歳。女遊びにふけっていた喜久治は、きの等が決めるままに弘子と結婚。久次郎が産まれるが、弘子はしきたりに背き実家で子を産んだと離縁される。昭和5年、喜兵衛が肺病で死に五代目を襲名。結婚はこりごりと商いと花街通いに励み、芸者のぽん太と仲居の幾子を囲い、ぽん太は太郎を産む。妾や妾の子への手当もしきたり通りである。昭和8年、満州事変で世の中は不景気。喜久治は流行のカフェの女給・比沙子とつき合い、幾子が幾郎を産んで亡くなり悲しむが、妾の死に駆けつけることは許されず、お福に慰められる。きのはかねがね、このお福に女の子を産ませ間違いのない養子婿をつけようと目を付けていた。寝物語に、お福から実は子の出来ない体と聞かされ喜久治は愉快である。昭和19年、空襲で河内屋は蔵を残して焼失。茫然自失の喜久治を頼り、ぽん太と比沙子とお福、疎開先からきのと勢以と女中もやって来る。喜久治は、店を立て直そうと、女たちに有り金を六等分にして渡し菩提寺に行かせるが、きのが川に落ちて死に勢以と女中は船場に残る。一年後に寺を訪ねると、三人の女は、喜久治のことなど気にかけずそれぞれの夢を語らいながら楽しく風呂に浸かっていた。喜久治は放蕩の終わりを感じて嬉しかった。昭和35年、かつての情緒を失いモダンでエネルギッシュな街に変貌した大阪。船場はもう無い。運送会社勤めの太郎の家に住む喜久治、57歳。喜久治は下手な落語家の春団子相手に放蕩の半生を語る。
主演の市川雷蔵が、是非にと持ってきた企画。生き生きとした娯楽映画づくりに徹した。

カラー スコープ 105分

おとうと 1960年大映東京
おとうと スチール写真

STAFF
製作:永田雅一 企画:藤井浩明 原作:幸田文 脚本:水木洋子 撮影:宮川一夫 照明:伊藤幸夫 美術:下河原友雄 録音:長谷川光雄 編集:中静達治 音楽:芥川也寸志

CAST
岸惠子 川口浩 田中絹代 森雅之 仲谷昇 浜村純 岸田今日子 土方孝哉 夏木章 友田輝 江波杏子

武骨だが気丈で情愛深い17歳の娘・げん。げんには、碧郎という二つ下の弟がいる。父は著名な小説家、母は、リューマチを患い信仰に救いを求める継母である。げんは、手足の痛む継母に代わり家事をこなし未熟ながらも碧郎の身の回りの面倒を見る。何もしてくれない継母に不満を抱く碧郎は、ふとしたきっかけから不良の仲間入りをしていく。げんは、ときに取っ組み合いの喧嘩をしながら碧郎を心配するが、継母は、碧郎が引き起こす事件に自分の不幸をかこち、父は、十分に目をかけてあげられない碧郎に申し訳ないと感じながらも書斎にこもりがちである。碧郎は、万引きやさざまな遊びに明け暮れていたが、ある時、貸し馬を疾駆させ馬を骨折させてしまう。駆けつけたげんとの帰り道、碧郎は、一度ぐれてしまった者の悲しみ、何もしない者のつまらなさをげんに打ち明ける。やがて、碧郎は肺病におかされ病床に臥す。げんは甲斐甲斐しく看病を続け、父は仕事をこなし治療費を稼ぐ。だが、碧郎の病は進行し、継母も不自由な身体で碧郎を見舞う。碧郎は、素直な気持ちで継母をいたわった。その晩、げんが付き添う病室で碧郎の容態は急変した。それぞれに孤独を抱えた人間が寄り添う一つの家庭で、げんは日々の営みを精いっぱいに生きる。

大正という時代を色彩で描写できないかという思いから、"銀残し"という特殊な現像処理方法を使った。

カラー(「銀残し」現像) スコープ 98分

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黒い十人の女 1961年大映東京
黒い十人の女 スチール写真

STAFF
製作:永田雅一 企画:藤井浩明 脚本:和田夏十 撮影:小林節雄 照明:伊藤幸夫 美術:下河原友雄 録音:西井憲一 編集:中静達治 音楽:芥川也寸志

CAST
船越英二 岸惠子 山本富士子 宮城まり子 中村玉緒 岸田今日子 宇野良子 村井千恵子 有明マスミ 紺野ユカ 倉田マユミ 森山加代子 永井智雄 大辻伺郎 伊丹一三

多数の番組を抱えいたずらに忙しいテレビ局プロデューサーの風松吉。風には10人の女がいる。レストランを経営する本妻の双葉、人気の新劇女優の市子、台本印刷を請け負う印刷会社の三輪子、そして、コマーシャルガール、演出助手、広報係等々の局の様々な職業の女性たち。女たちは、風をつまらない男だと思っている。だが、このふわふわと宙に浮いたような男への執着を断ち切れない。友達のような付き合いをする双葉と市子は、戯れに10人の女が揃って風を殺す計画を立て興じていた。三輪子からその噂を知らされ、風は恐怖におびえる。双葉に噂の真相を糾すと、双葉は一笑。だが、夫婦の会話は思わぬ展開になり、双葉と風の新計画が始まる。風を吊るし上げようと、10人の女と風が一同に会した一室。双葉はピストルの銃口を風に向ける。その弾はテレビ用か本物か…。計画は成功裏に終るが、双葉を待っていたのは堪え難い生活だった。計画の真相を知った9人の女が、双葉を責める。風の死にショックを受け自殺した三輪子は幽霊である。市子は、下手な芝居で騙された腹いせに双葉をビンタ、そして、ある提案をする。

昭和30年代の急成長期のテレビ局を舞台に、自己疎外の状態にある現代人を描く、人間が人間でありたいと望むノスタルジーの物語である。

モノクロ スコープ 103分

破戒 1962年大映京都
破戒 スチール写真

STAFF
製作:永田雅一 企画:藤井浩明 原作:島崎藤村 脚本:和田夏十 撮影:宮川一夫 照明:岡本健一 美術:西岡善信 録音:大角正夫 編集:西田重雄 音楽:芥川也寸志

CAST
市川雷蔵 長門裕之 船越英二 藤村志保 三國連太郎 中村鴈治郎 岸田今日子 宮口精二 杉村春子 加藤嘉 浜村純

信州の山間で暮らす父が死んだ。その時、小学校教諭の丑松は、父が自分の名を呼ぶ声を聞いた。丑松が父と交わした誓いは、被差別部落出身者であることを隠し通して生きることであった。その為に、父は丑松に学問を学ばせ己は世捨て人となった。丑松は尊敬する部落民解放運動家の猪子にも素性を明かさずにいた。選挙に立つ高柳が丑松の素性を知り協力をあおぐ。高柳は部落出身者の資産家の娘を娶っていた。丑松が素性を認めず協力を拒否すると、丑松が部落出身者であるとの噂が立った。折しも丑松を訪ねて来た猪子に、丑松は人違いであろうと言い通し一方的に交流を断ち切った。その直後、高柳の対戦相手に選挙協力を頼まれていた猪子は、高柳が仕掛けた暴漢に襲われ路頭で横死した。友情を裏切り猪子を永遠に失った丑松は、父との誓いを破り教え子らに自分が部落出身者であることを告白する。猪子を捨て、父を捨て、丑松は苦悩する。同僚の娘・志保は、丑松を支えたいと望み、その深い愛が丑松を救う。猪子の妻は、普通の人間なら普通に振る舞い、告白などする必要はなかったと言う。だが、丑松は猪子の遺志を継ぐ決心をしていた。その決心に、猪子の妻も夫の喜びを思い涙する。志保、親友の土屋、教え子らに見送られ、丑松は東京へと旅立つ。

日本テレビの連続ドラマ『破戒』を撮り終わった頃、次回作の依頼があり、この企画が決まった。映画には週区切りのテレビドラマとは違う大きな流れがあると、ドラマとは演出のリズムを変えた。

モノクロ スコープ 119分

私は二歳 1962年大映東京
私は二歳 スチール写真

STAFF
製作:永田秀雅、市川崑 企画:藤井浩明 原作:松田道雄 脚本:和田夏十 撮影:小林節雄 照明:伊藤幸夫 美術:千田隆 録音:飛田喜美雄 編集:中静達治 音楽:芥川也寸志

CAST
船越英二 山本富士子 鈴木博雄 浦辺粂子 渡辺美佐子 京塚昌子 岸田今日子 倉田マユミ 大辻伺郎 浜村純 中村メイコ(声)

ターちゃんこと小川太郎は、まだ生まれてまもない赤ちゃんである。母の千代は、筋肉を動かす練習をしている太郎を見て、「笑った」と喜び、父の五郎は、初めて歩いた太郎に、「もっと歩け」と無茶を言う。五郎はサラリーマンで、親子は都内の団地に暮らしている。怪我、病気、夜泣きにいたずらと、次々と巻き起こる出来事に夫婦は喧嘩と仲直りの繰り返しである。親子は、五郎の実家でおばあさんのいのと同居することになった。千代といのは、子育ての方針をめぐり度々意見が食い違う。いのの楽しみにと奮発してテレビを買った。いのは、テレビを見て新しい考え方を熱心に取り込み進歩的になっていった。そんないのが倒れ急死する。いのが居なくなり、千代と五郎は、親、子供、孫と続いていく人間の生命の繰り返しに思いを馳せる。ケーキに二本のろうそくが灯る。太郎の二歳の誕生日である。

松田道雄のベストセラー育児書『私は二歳』『私は赤ちゃん』の映画化。変わることのない人間の生命の営みを、昭和30年代の世相のなかにユーモラスに描く。

カラー スタンダード 88分

* 作品タイトル欄の社名等は、映画制作当時の製作者です。
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