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Films

劇場公開作品をご紹介します。
わたしの凡てを 1954年東宝
わたしの凡てを スチール写真

STAFF
製作:滝村和男 原作:菊田一夫 脚本:梅田晴夫、浅野辰雄、市川崑 撮影:三浦光雄 照明:猪原一郎 美術:阿久根巌 録音:保坂有明 編集:大井幸造 音楽:服部良一

CAST
伊東絹子 池部良 有馬稲子 上原謙 日高澄子 二本柳寛 藤原釜足 加東大介 山田巳之助 沢村貞子 塩沢登代路

道子の姉・敏子は、許嫁を取られたと誤解し道子を憎悪して故郷を出た。道子は、その姉を捜す為に独り東京に出て来て、サラリーマンの関と出会い愛し合うようになった。だが、道子をモデルに絵筆をとる画家の風間もまた道子を命の綱と愛しており、関の会社の若い女社長・るいは、関を公私のパートナーにしたいと思っていた。道子が突如関の元を去り、関はるいの仕業と疑うが、それは野望を抱く元華族の支店長・車坂の企みだった。その矢先、関の下宿の隣人が敏子と分かり、関は姉妹を会わせようとするが、道子は見つからず敏子は大阪へ転居してしまう。るいは、偶然敏子と会い敏子の胸の内を知ることとなった。道子を捜しつづけた関は、遂に再会を果たし、二人は愛を確かめ合う。道子は車坂によってモデルにさせられ、今では独力でトップモデルになっていた。ミス・ニッポン・コンテストに出場していた道子に、風間危篤の知らせが入る。風間は臨終で道子と関の幸せを願った。道子はコンテストで優勝し、ミス・ユニバース出場の為アメリカに旅立つ。るいは、道子に負け会社は車坂の不正で人手に渡ったが、新規巻き直しを誓って潔く、旅立つ道子に敏子は幸せに暮らしていると伝える。それはるいの嘘だったが、敏子は道子の幸せを知り、いつしか恨みは消えていた。

ミス・ユニバースで3位になった伊東絹子のデビュー作として企画されたメロドラマ。注文作品を撮るにあたり自分の個性を失わないよう苦労し、三浦カメラマンと凝った映像づくりにこだわった。

モノクロ スタンダード 85分

億万長者 1954年青年俳優クラブ
億万長者 スチール写真

STAFF
企画:本田延三郎 脚本:市川崑 脚本協力:安部公房、横山泰三、長谷部慶次、和田夏十 撮影:伊藤武夫 照明:平田光治 美術:平川透徹 録音:安恵重遠 編集:河野秋和 音楽:団伊玖磨

CAST
木村功 久我美子 山田五十鈴 伊藤雄之助 信欣三 高橋豊子 岡田英次 松山省次 加藤嘉 左幸子 多々良純 北林谷栄

税務署の徴税係員の館は、学歴も親戚もなく、栄養失調の、純情で真っ正直で気弱な男である。ある日、贋夫婦の家に徴収に行くが、子だくさんの一家の恐ろしい困窮ぶりに税の取り立てもままならず、二階の間借り人・すてが原子爆弾を造っていると聞いて、慌てて逃げる。別の日、借金で生きるか死ぬかの瀬戸際の未亡人を訪ねると、未亡人に人殺しをするか汚職をするかと迫られ、無理矢理一万円を掴まされる。汚職は税務署長もやっている。だが館は、罪の意識に苦しみ自殺を決意。一万円は工事現場で働くすてにやり、なかなか死ねず呆然と歩く。そんな館に希望と勇気を与えたのは、館を轢きそうになったタクシーの客、赤坂の芸者・花熊だった。花熊に勧められ、館は汚職日本を救う大きな使命を抱き、俄然張り切って、署長や政治家の不正を暴く脱税者名簿の作成に励む。花熊は名簿をゆすりに使う魂胆である。それを知りショックを受けた館は名簿を道に落としてしまい、拾ったのは検察総長。署長と花熊は名簿を盗むなりしてなんとか助けてくれと館に懇願するが、館は、使命を全うすべく行政監察委員会に乗り込み真実を告白する。が、場内に起こった笑いに昏倒し狂人扱いされ追い出される。ふらふらとすてを訪ねていくと、すては、今日も原爆で死んだ家族の仇を討つ為に原爆を造っている。死を決意して一旦は恐くなくなった原爆だが、その完成を聞いて館は慌てる。階下の贋家は一家心中していた。館は、生き残った贋家の長男・門太とともに、ひたすら遠くへ逃げる。

デフォルメされた世相をリアルな映像で描くブラックな社会風刺喜劇。独立プロの厳しい製作状況の中、配給がらみの揉め事が起き、ラストシーンがカットされ公開された。そのため、市川により監督クレジットが削除された。

モノクロ スタンダード 83分

女性に関する十二章 1954年東宝
女性に関する十二章 スチール写真

STAFF
製作:藤本真澄 原作:伊藤整 脚本:和田夏十 撮影:三浦光雄 照明:城田正雄 美術:河東安英 録音:西川善男 編集:大井幸造 音楽:黛敏郎

CAST
津島恵子 小泉博 上原謙 有馬稲子 久慈あさみ 太刀川洋一 徳川夢声 三好栄子 小泉澄子 伊豆肇 中北千枝子 小牧正英 伊藤整

ミナ子は、恋愛や結婚に悩みハウツー本を読みあさる新進のバレリーナ。恋人の小平太は銀行マンである。9年の付き合いの二人は、共に結婚の意志がありながら未だにゴールインできない。ミナ子は、知人に小平太のことを兄だとかハトコだとか言っており、小平太は小平太で、母の言いなりに次々と見合いを重ねる。南洋の島へ転任が決まった小平太は、妻同伴が上司命令でもありミナ子との結婚を急ぐ。だが、ミナ子は大舞台の稽古中でそれどころではない。やむなく小平太が見合い相手の一人と結婚を決めると、ミナ子は、自分の知っている人と結婚して欲しいと、後輩の千栄里を紹介する。千栄里は結婚に大乗り気で、小平太は、急遽花嫁を千栄里に変更。その結婚式が始まる直前、バレー団脱退のもめ事に疲れ小平太の結婚にヤキモキしていたミナ子は、小平太と心の内を語り合う。そして二人は、一緒に死のうと式場を抜け出し海へ行く。だが、海も空も見納めにするのが惜しいほど美しく、二人は死ぬのを止めて帰る。と、小平太は、皆の前でミナ子との結婚を宣言した。千栄里は、3年で破綻すると踏んで待つことに決め、ミナ子は、小平太の断固たる決心を知り、遂に結婚を決意する。

伊藤整のベストセラー・エッセイをもとに、伊藤、和田、市川でオリジナルストーリーをつくり映画化したライト・コメディ。映画の中にも度々原作本が登場し、ナレーションは伊藤整が担当。

モノクロ スタンダード 87分

青春怪談 1955年日活
青春怪談 スチール写真

STAFF
製作:山本武 高木雅行 原作:獅子文六 脚本:和田夏十 撮影:峰重義 照明:藤林甲 美術:中村公彦 録音:神谷正和 編集:辻井正則 音楽:黛敏郎

CAST
北原三枝 山村聡 三橋達也 轟夕起子 山根寿子 嵯峨三智子 芦川いづみ 三戸部スエ 千田是也 滝沢修 宇野重吉 北林谷栄

母を亡くし、父・鉄也と二人暮らしの千春は、バレリーナを一生の仕事と打ち込むクールで中性的な魅力の女性。慎一は、亡父がやっていた病院の賃貸やパチンコ屋経営をし、ひとかどの実業家を志す超合理主義者の美男子で、母・蝶子と暮らしている。千春と慎一は、親密だが恋愛意識はなく互いに異性を感じないところが好きである。ある時千春は、父の家からの独立を考え鉄也と蝶子の再婚を画策する。すると、蝶子は娘のように熱烈に鉄也に恋するが、鉄也は千春の結婚が先決と再婚を拒む。千春は慎一に相談し、もはや蝶子をあきらめさせることは不可能と、鉄也を再婚させる為に自分たちの結婚を決める。ところが、慎一の顧客のバーのマダム・トミ、千春を慕う娘・シンデの強烈な嫉妬に遭い、パチンコ屋は潰され、千春が女でないとの噂が飛び交う。そして肝心の鉄也はなおも再婚を拒む。しかし、思い詰めた蝶子の気持ちが遂に鉄也の心を動かした。晴れて結婚式を挙げた熟年カップルは若やぐ心を謳歌し、目標に向かって突き進む若者たちは結婚を取り止める。だが、慎一は、千春が女でないかもしれないと悩んだことで恋愛を知り、いづれ千春と結婚したいと思っていた。慎一の気持ちを知って、千春もまた、考えてみようと思うのだった。

日活移籍第一作。日活と新東宝との競作で、公開日も同じ。新東宝作品は、市川の師匠である阿部豊が監督。

モノクロ スタンダード 114分

こころ 1955年日活
こころ スチール写真

STAFF
製作:高木雅行 原作:夏目漱石 脚本:猪俣勝人、長谷部慶治 撮影:伊藤武夫、藤岡粂信 照明:藤林甲 美術:小池一美 録音:橋本文雄 編集:辻井正則 音楽:大木正夫

CAST
森雅之 新珠三千代 三橋達也 安井昌二 田村秋子 鶴丸陸彦 北林谷栄 下元勉 久松晃 下條正己 奈良岡朋子

明治45年。野淵は、高い学識を持ちながら世に出て働かず本郷の自宅で妻の静と厭世的な暮らしをしている。大学生の日置は、ある海での出来事以来、野淵に強く惹かれ足しげく野淵の家を訪れる。野淵には誰にも言えぬ心の秘密があり、そのことが、本来は明るい性格の静に屈託を感じさせていた。野淵の思想を尊敬し、その背景にある人生の経験を知りたいと真摯に語る日置に、野淵は、時期が来たら全てを話すと約束をする。そして、明治天皇崩御、乃木大将殉死の報にふれた野淵は、日置に宛てた手紙を綴る。人間は罪悪だ、と語る野淵、その秘められた過去とは、学生の頃、共に静の実家に下宿していた親友・梶の自殺にまつわる出来事であった。精神的向上心を持ち、道の為に強靭な精神力を鍛え上げようとする梶は、静を愛し苦悩していた。その告白に、静を奪われたくない野淵は、友情を裏切って梶を死なせ、友情厚い男のように振る舞った。野淵は、愛する唯一人の女を妻としながら、静がいるかぎり梶を忘れることが出来なかった。静は、野淵一人を頼りとしながらその心を知ることが出来ずに暮らしていた。その手紙は、明治の終焉に死を決意した野淵の遺書であり、静の過去の記憶を綺麗なものにしておくために、日置唯一人に打ち明けられた秘密であった。

人間のエゴイズムを追求した夏目漱石の原作に真っ向から挑み、正攻法に徹して、孤独の心、悲哀、苦悩を深く見つめた意欲作。

モノクロ スタンダード 122分

ビルマの竪琴 1956年日活
ビルマの竪琴 スチール写真

STAFF
製作:高木雅行 原案:竹山道雄 脚本:和田夏十 撮影:横山実 照明:藤林甲 美術:松山崇 録音:神谷正和 編集:辻井正則 音楽:伊福部昭

CAST
三國連太郎 安井昌二 浜村純 内藤武敏 西村晃 春日俊二 中原啓七 土方弘 花村信輝 北林谷栄 三橋達也 伊藤雄之助

1945年7月。ビルマの井上小隊は、山中をタイへ敗走していた。隊は、音楽家の井上隊長の指導で皆でよく合唱をした。水島上等兵は竪琴が上手く、彼の伴奏は合唱に欠かせないものであった。日本は降伏し、隊はムドンの捕虜収容所へ送られる。水島は、降伏を認めず三角山に立てこもる日本兵を説得する任務を受け、ひとり山へ向かった。ムドンで隊員たちは水島の到着を待った。三角山の日本軍は砲撃されたと聞く。だが、橋の上ですれ違った水島に良く似たビルマ僧、水島特有の弾き方で竪琴を弾くビルマの少年、隊員の合唱にどこからか和するように聞こえて来る竪琴の音色に、隊員は水島の生存に希望を抱き捜し続ける。消息が判然とせぬまま、やがて隊の帰還の日が決まる。隊員は、彼等のメッセージを一羽のオウムに覚えさせ、オウムをビルマ僧に届けた。収容所にビルマ僧姿の水島が現れ、竪琴を弾いて去っていく。井上隊長に水島の手紙が届き、井上は復員船の甲板に皆を集めてその手紙を読む。仲間と離れ、ビルマの山河をさまよい、水島はどんな体験をしたのか。水島は、ビルマで骸となった同胞を置いて日本に帰ることができなくなった。一人の日本兵・水島が選んだ生き方は、ビルマの大地で、僧となり苦しみの多い世の中で少しでも救いを与える者となって生きることであった。

公開日の関係で、先に国内で撮影した前半の「第1部」が公開された。ビルマロケ終了後、前半の編集とダビングをやり直した完成形態の「総集編」が作られた。しかし、会社の意向により、一部の映画館を除き、「第1部」に後半の「第2部」を併せた上映となった。現在ソフト化されているものは「総集編」。

モノクロ スタンダード 116分(総集編)

処刑の部屋 1956年大映東京
処刑の部屋 スチール写真

STAFF
製作:永田秀雅 企画:土井逸雄 原作:石原慎太郎 脚本:和田夏十、長谷部慶治 撮影:中川芳久 照明:泉正蔵 美術:下河原友雄 録音:須田武雄 編集:中静達治 音楽:宅孝二

CAST
川口浩 若尾文子 宮口精二 岸輝子 川崎敬三 梅若正義 小高尊 平田守 山崎直樹 瀬戸ヱニ子 中村伸郎

島田克巳はU大の大学生。銀行員で胃病に苦しみながら職務に奮励する父を蔑み、夫や子の顔色を伺いながらただ静かに暮らすことを願う母に苛立ち、名を売ることに忙しい教授に反抗する。克巳は、捜しているものを見つける為にやりたいことをやると、学友の伊藤や良治らとダンスパーティを開催して金を稼ぎ、J大生との喧嘩に熱中する。大学野球リーグ戦でU大が優勝した日、熱狂した学生でごったがえす新宿の盛り場で、克巳は、伊藤に誘われK大の女子学生・顕子に睡眠薬入りのビールを飲ませ犯す。顕子は克巳を愛するようになるが、克巳は、恋愛ごっこに興味はないと冷たく突き放す。卒業を控え、就職先の内定を取付けた良治は変貌した。克巳は、良治が企画したダンスパーティでJ大の竹島に収益金の強奪を誘いかける。竹島は克巳の計画通りに強奪を実行し、事を荒立てたくない良治は竹島の要求にすんなりと応じた。竹島らが屯する酒場。克巳が、奪った金を返せと竹島に迫る。良治に叩き返して縁を切るためである。乱闘になり、偶然やって来た顕子が、克巳に侮辱され克巳をナイフで刺す。皆は逃げ、克巳は血まみれの体を引きずり露地に這い出る。その時克巳は、捜していたものに近づいていると感じていた。

青春の奔流のままに爆発する若者の苦悩と怒りを描く。大映移籍第一作。"大映調"とは違うものを、と大映から提示された企画である。

モノクロ スタンダード 96分

* 作品タイトル欄の社名等は、映画制作当時の製作者です。